米Microsoftは5月10日~12日(米国時間)、米ワシントン州シアトルにて年次開発者会議の「Build 2017」を開催した。さまざまな技術やサービスの発表を通じて、同社が今後注力していく分野、そして世界的な新しいITトレンドをいち早く知ることができるため、開発者に限らず注目のイベントだ。


2日目の基調講演では、Windowsの開発責任者であるテリー・マイヤーソン氏が登壇するなど、Windows関連の最新トピックが多数紹介された。ここでは発表内容のポイントを3つに絞って解説していく。

●(1)過去2年の集大成を目指す「Windows 10 Fall Creators Update」

マイヤーソン氏は、これまでRedstone 3(RS3)の開発コード名で呼ばれてきたWindows 10の次期大型アップデートの正式名称が「Fall Creators Update」であることを発表した。

Windows 10の大規模アップデートが「春(Spring)」と「秋(Fall)」の年2回制に固定されたことを反映しての命名だと思われるが、現行のRedstone 2(RS2)こと「Creators Update(1703)」が当初計画における完成途上版だとすれば、Fall Creators Update(RS3)はその集大成と言える。

例えば、1年前の「Build 2016」でお披露目された機能や新技術が、ようやく巡り巡ってFall Creators Updateの世代で本格実装が行われるなど、Redstoneシリーズの集大成とすべく開発が進んでいるからだ。

典型的なものの1つとしては、2016年後半に話題となった新しいデザイン言語の「Project NEON」が挙げられる。PCだけでなく、モバイルからゲーム機、HoloLens、Windows Mixed Realityまで、新しい世代のデバイスでも共通で使いやすいデザインを策定すべく準備が進められていたものだ。

Creators Updateでも既に一部アプリへの実装が進んで確認できるが、今回はこの名称が正式に「Microsoft Fluent Design System」と発表され、多くのアプリ開発者も巻き込んでWindowsの標準UIとなるべく大きく動きつつある。特徴としては、UIの「奥行き」や、情報を視覚化する「モーション」、そして「質感」と、3Dや仮想現実(VR)の世界を意識した要素が新たに加わった。

また、今日のスマートデバイスを活用した作業においては、デスク上のPCだけでなく、場合によってはタブレットでレイアウトを確認したり、あるいはスマートフォンを持って外出して出先で情報をチェックしたりと、デバイスが中心ではなく、人やコンテンツを中心に進むことが多い。

こうしたアクティビティーや作業途中のファイルなど、デバイスやアプリケーション間でスムーズな受け渡しを可能にすべく、「Microsoft Graph」を使ってクラウド上で引き継ぎを行う仕組みが提供される。

さらに「OneDrive Files On-Demand」という仕組みを使えば、例えば作業中のファイルをデスクトップ上に置きっ放しにして外出したとしても、OneDriveを介して適時サルベージが可能になる。

こうしたデバイス間でのファイル利用状況も適時アップデートされ、保存場所を意識せずに済むというのは、DOS時代から綿々と受け継がれてきたファイルシステムの「くびき」からようやく解放されつつあることを示しているのかもしれない。

このほか、作業したファイルを時系列で一覧表示させる「Time Line」機能も用意される。

これらデバイス間の連携はWindowsだけでなく、今日スマートデバイスの世界で同OSをしのぐシェアを誇るAndroidとiOSとの間でも利用できる。

例えば、Windows 10のNewsアプリで記事を途中まで閲覧した状態で外出した場合、手持ちのiPhoneにインストールした音声対応アシスタントの「Cortana」がそれを通知してくれて、読み途中の状態から購読を再開できる。

また、クラウド上にクリップボードを展開することで、例えばAndroidにMicrosoftのSwiftkeyキーボードを導入している場合など、デバイス間をまたいでクリップボード履歴から長文のコピー&ペーストが可能になるため、わざわざフレーズを再入力して検索作業を行う必要はない。

この仕組みは「Project Rome」としてBuild 2016で発表されたもので、1年以上の月日を経てようやく形になってきた印象だ。ただ、Project Romeは対応アプリにSDKを導入するというハードルがあり、これがどれだけ便利に利用できるかはサードパーティーの意向次第と言える。当面はMicrosoft純正アプリをより便利に使う機能にとどまることになるだろう。

前回のBuild 2016で大きな話題となったものには、「Windows Subsystem for Linux(WSL)」もある。Linuxアプリケーション上のシステムコールをWindowsに直結させるサブシステムを用意することで、例えば「Bash」を利用できたり、ELFバイナリをWindows上で直接動作させられたりする。

2016年8月に配信開始のRedstone 1(RS1)こと「Anniversary Update(1607)」以降に正式サポートされ、少々特殊な手順を踏むことでUbuntuがWindows上で動作させられるようになったが、今回の発表ではUbuntuの導入がWindowsストアを通じて可能になった。さらに、SUSEやFedoraもWSLに対応し、やはりWindowsストア経由で導入できる。

PowerShellなどが利用できない「Windows 10 S」対策の一環と思われるが、Xamarinを含めてあらゆる種類のデベロッパーをWindows上でフォローしていく姿勢がより明確になりつつある。

●(2)Windows 10のmacOS化が進んでいる?

2日目の基調講演で個人的に最もひかれたのは「Windows Story Remix」だ。動画などの要素を組み合わせて利用者オリジナルの「ストーリー」、つまり独自に編集したビデオを簡単に作成できる。さまざまなエフェクトや、AIを駆使して特定の人物のみにフォーカスした映像をコンピュータが自動的に再編集できるなど、過去に存在した動画編集ソフトウェアに比べても非常に「インテリジェント」な仕上がりだ。

動画内の人物を認識するだけでなく、特定のオブジェクトの動きを自動追跡することもできる。サッカーボールにエフェクトを与えた場合に、そのエフェクトがボールの動きに追随するようになる。人物の動きが分かりやすいよう矢印でキャプションを添えると、動画内の動きに合わせてキャプションの位置も動く、といった具合だ。

さらに、Creators Update以降に追加された3Dデータ編集アプリ「Paint 3D」と連携して作成したオブジェクトを登録可能なサイト「Remix 3D」へと接続して、ここで登録された3Dオブジェクトを素材としても利用できる。

例えば、「Fireball」のオブジェクトをシュートシーンのボールに重ねておくと、あたかも燃えながら飛んでいくようなシュートが動画上に再現される。シュートのタイミングで爆発のエフェクトを加えると、より派手な演出となる。かつての一般向け動画編集ソフトウェアでは難しかった強力な機能が、クラウド上のAIを使うことで手軽に実現可能になったわけだ。

こうしたリッチな標準アプリをWindowsに標準添付することは、かつてのMicrosoftではあまり考えられなかった。Windows OSという屋台骨を提供する裏方に徹し、むしろサードパーティーやOEMメーカーの活躍する場を積極的に用意していたような印象がある。

同社がアンチウイルスの市場に進出してWindowsへのソフトウェア提供を開始した際に、同様のソリューションを提供していたサードパーティーらの反発を呼んだように、かつては独占禁止法の観点からも、こうした競合を避けていたのかもしれない。

しかし昨今、よりリッチで優秀なソフトウェアやハードウェアをファーストパーティーとして積極的に投入し、サードパーティーやOEMの市場を侵食していくというのは、Appleが繰り返してきた手法と言える。

Appleは過去に「iPhoto」や「iMovie」によって手軽な素材管理やリッチな編集といった環境を提供し、「iWeb」で再配布する手段も用意するなど、プロフェッショナル以外の分野におけるサードパーティーの活躍の余地を「iLife」製品の数々で奪ってきた。現在はWindows 10が、その道をたどりつつある。

「競合と戦ってユーザーに認めてもらうには、より優秀な製品でなければならない」とばかりにMicrosoftがこうした方針転換を始めたのは、2012年に投入したWindows 8の時代にさかのぼる。スマートフォンやタブレットの台頭に合わせてユーザーインタフェースをタッチ操作向けに大きく変更し、OEMの市場を食う勢いで「Surface」という2in1タイプのハードウェアを投入するなど、自ら新たな市場を開拓する立場となった。

こうしたWindows 8からのMicrosoftの冒険は苦難の道のりだったが、Windows 7とWindows 8のいいとこ取りをしたWindows 10を2015年に公開してから、3度の大型アップデートを経て、次回の4度目となるFall Creators Updateでは、いよいよ努力が結実しつつあるのではないだろうか。

とはいえ、MicrosoftがAppleと大きく異なっているのがデバイス戦略だ。AppleはMacからiPhoneまで、全てのデバイスやサービスを自社製品で囲い込むのが基本だが、残念ながらMicrosoftはスマートフォン市場でのプレゼンスが弱く、どうしてもAndroidやiOSとの連携が必要になってくる。

Project RomeやXamarinはこれを補完するものだが、フロントエンドのデバイスの世界ではAppleほど一貫した操作体験を提供できないという弱みもあり、これは恐らく今後も解決するのに時間がかかるだろう。

ただし、クラウド方面に関してはAppleに対して秀でており、今後のMicrosoftはどちらかと言えば、「雲の上」がライバルとの主戦場になるだろう。今回のBuild 2017では、同社のクラウド重視傾向がより濃く出ていた。

●(3)クラウドとAIに傾注するMicrosoft

身近なWindowsの話題から紹介したが、今後のMicrosoftや世界のITトレンドを大きく左右するような発表の多くは、1日目の基調講演に詰まっていた。

エッジデバイスをインテリジェント化する「Azure IoT Edge」、本稿でも触れたOffice 365のデータを活用する仕組みである「Microsoft Graph」のさらなる拡張、地球全体にスケールアウトする高レスポンス巨大データベースの「Azure Cosmos DB」、Mac上の開発者も取り込む「Visual Studio 2017 for Mac」などはその一例だろう。

1日目の基調講演の最後には、Microsoft AI and Research担当のハリー・シャム氏が登壇し、同社のAIに対する最新の取り組みを語った。

Skypeのリアルタイム翻訳はその一部だが、PowerPointによるプレゼンテーションの適時翻訳を可能とする「Presentation Translator」や、これらAIの仕組みをフロントデバイスを通じて利用可能にする「Cortana Skills Kit」、29種類まで拡張された「Cognitive Services」と、今日の生活を大きく改善する可能性を秘めた技術の下地は整いつつある。

例えば、写真管理アプリにおける画像検索においても、既にCognitive Servicesを使ったAIによる自動認識なしには成り立たないレベルになりつつある。Microsoft Graphなどの仕組みも合わせて、従来型のファイルシステムやデータ管理システムとの決別がやって来る日は近いかもしれない。

 

 

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